相続が発生したときに遺産をまとめる方法

相続が発生したときに遺産をまとめる方法

 今回ブログ初投稿です。

 ホームページを開設して半年経ってからの初投稿ですので,やる気ないように見えますね。業務を優先していたため,なかなか手が回りませんでした。これからもぼちぼち投稿していきます。

 第1回のテーマは「相続が発生したときに遺産をまとめる方法について」です。被相続人の遺言書がない場合であり,相続人全員の合意があることを前提としています。

 方法は,①遺産分割協議,②相続分譲渡,③相続放棄の3つが考えられます。それぞれの特徴をとらえて,具体的な事案に即して方法を選択する必要があります。

 

【①遺産分割協議について】

 遺産分割協議は,相続人全員の協議により具体的な遺産分割を決める方法です。

 遺産分割協議の場合,相続人全員の合意によって,法定相続分(民法900条)にとらわれることなく,特定の相続人に遺産をまとめる遺産分割協議を成立させることも可能です。遺産分割協議書に相続人全員が署名,実印で押印して,印鑑登録証明書を添付することにより成立し,遺産分割協議書,印鑑登録証明書をもって預貯金の解約,相続登記などを行うことができます。

 預貯金,不動産などの積極財産だけでなく,被相続人名義の借入金などの債務(消極財産)があるケースもあると思います。このような場合,積極財産を全部取得した相続人が債務も相続するとするケースが多いと思いますが,このことは遺産分割協議書にきちんと記載しておく必要があります。

 もっとも,遺産分割協議の場合,債権者との関係では,遺産分割協議が成立していたとしても法定相続分に応じた割合で債務を相続したままとなる点に注意が必要です。この点は権利義務の一切を承継しない相続放棄と異なります。相続人間における遺産分割協議だけでは,債権者には主張できないのです。自宅の住宅ローンであれば,団体信用生命保険により完済となることもあると思いますが,収益物件を購入するためのローンなどの場合には,当該不動産を全部取得した相続人が債権者の承認を得て免責的債務引受を行うことが必要になります。

 免責的債務引受がなく,遺産を全部取得した相続人が借金の返済を怠った場合,何も遺産を取得していない相続人も,債権者から法定相続分に応じた債務の履行を求められる可能性があります。相続が発生してから長期間経過後に債権者から法定相続分に応じた債務の履行を求められた場合には,債権者に対して消滅時効を援用して,債務を消滅させることができる可能性がありますので,債権者への対応は慎重にご判断ください。

 なお,相続人は,民法908条の規定により「被相続人が遺言で禁じた場合を除き,いつでも,その協議で,遺産の全部又は一部の分割をすることができる」(民法907条)ので,相続放棄のように期間が限定されていません(※相続税の申告には期限があります)。

【②相続分譲渡について】

 次は相続分譲渡です。相続分譲渡は,自身が相続した相続分を,他の相続人に譲渡する手続です。

 相続分譲渡の場合,相続人全員の合意ではなく,特定の相続人間でも行うことができます。例えば父,母,長男,長女の4人家族において,父が亡くなった場合,長女がその相続分を母に譲渡するようなケースです。

 相続分譲渡の場合には,相続分譲渡証書に譲渡人,譲受人が署名,実印で押印して,印鑑登録証明書を添付することにより成立します。特定の相続人に対し,他の相続人全員が相続分譲渡した場合には,特定の相続人のみが遺産を取得することになります。

 相続分譲渡は,相続人が多く,相続人全員での合意が困難な場合に選択するケースが多く,譲渡した相続人は遺産分割協議から離脱することになります。家裁における遺産分割調停事件の場合には,調停事件から離脱(手続からの排除と言います)することになります。

 相続分譲渡の場合,遺産分割協議と同様に仮に借入金などの債務がある場合,債権者との関係では,法定相続分に応じた割合で借金を相続したままとなる点に注意が必要です。免責的債務引受がなく,遺産を全部取得した相続人が借金の返済を怠った場合,何も遺産を取得していない相続人も,債権者から法定相続分に応じた債務の履行を求められる可能性がありますのでご注意ください。

【③相続放棄について】

 相続放棄(民法915条1項)は,被相続人の権利や義務を一切受け継がないことにする手続です。相続放棄をすると,もともと相続人ではなかったことになり,その法定相続分は他の相続人が受け継ぐことになります。

 相続放棄によって遺産をまとめる場合には,遺産を相続する相続人以外の全員が相続放棄手続を行う必要があります。

 注意が必要なのは,父,母,長男,長女という家族構成において,父が亡くなり,母に全部の遺産を相続させたいと考えるケースです。このようなケースで長男,長女が相続放棄してしまうと,祖父母(第2順位),若しくは父の兄弟姉妹(第3順位)が相続人となり,祖父母,若しくは父の兄弟姉妹に遺産がいってしまう可能性があるのです。そうなると,祖父母,兄弟姉妹が相続放棄の手続を行わなければ,母に全部の遺産を相続させたいという長男,長女の思いを実現することが困難になってしまう可能性があります。そのため,このようなケースでは相続放棄を選択せず,長男,長女は,遺産分割協議,相続分譲渡によって母に遺産をまとめることを選択すべきことになります。

 相続放棄は,相続放棄の申述受理という手続を「自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に」被相続人の最後の住所地の家庭裁判所にて行う必要があります。相続人間の話し合いだけでは「相続放棄」をしたことにはなりませんのでご注意ください。

 相続放棄は,被相続人の権利や義務を一切受け継がないため,仮に被相続人に借金があったとしても受け継ぐことはありません。家庭裁判所に「相続放棄申述受理証明書」を申請して取得することができるので,債権者に同証明書を示して支払いを拒否することになります。

民法915条

 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

【最後に】

 このように①遺産分割協議,②相続分譲渡,③相続放棄については,それぞれの特徴をふまえて,具体的な事案に即して選択する必要がありますし,事案によっては本ブログに記載した内容以外にも判断の要素となる事項もありえます。

 悩んだときには,德永法律事務所までお気軽にご相談ください。

                            弁護士 德永幸生